AI時代を生きる子どもたちに必要な力とは?

AIの能力と課題 ~「東ロボくん」の限界

ロボット(AI)は東大に合格できるか!という「東ロボくん」プロジェクト
国立情報学研究所 社会共有知研究センター長の新井紀子教授らにより2011年にスタートした人工知能(AI)の研究開発事業です。

2015年の模試では偏差値57.8をマーク、通称MARCH明治、青山、立教などの難関大学)の一部学科の模試では、A判定(合格率80%)を得ましたが、そこで東大合格を断念せざるを得なくなりました。

理由は、「AIは文章の読解が極端に苦手」であることが判明したためでした。

ビッグデータと深層学習を利用した統計的学習という現在のAI理論では、これ以上の成績向上は不可能であり、何らかのブレイクスルーがない限り東大合格は不可能と判断され、開発は凍結されました。
現在のAIは、膨大な知識はあっても文章の読解力が致命的に低く、新井教授いわく「知識に比べ幼稚な知性」という、AI開発の課題が明らかになりました。

子どもたちの学力の課題

ところが、この研究過程で衝撃の事実が分かりました。
調査対象となった名門高校・大学の子どもたちの読解の仕方が「AIに似ている」ということでした。

事実、OECD(経済協力開発機構)が2018年に行ったPISA(学習到達度調査)において、日本の「読解力」の順位は11位と、前回よりさらに低下しました(OECD加盟37カ国中)。
文科省は結果について、「読解力だけでなく、コンピューター画面上での長文読解への慣れなど様々な要因が影響している可能性がある」とコメントしましたが、「数学的リテラシー」は1位「科学的リテラシー」は2位と世界トップレベルであることからも、苦しい言い訳でしかなく、「読解力不足」という「東ロボくんプロジェクト」で見えた課題を裏付けることになりました。

私たちはAIに勝てるか ~AI時代に必要な力

今後、AIによる労働代替が進み、多くの仕事が奪われると予想されている近未来の社会において、人が活躍の場を確保するために、「読解力」は極めて重要な力となっていくと考えられます。
どの教科の学習においても、文章を正確に読み取り、内容を正しく理解することができなければ、正解を導くことは決してできません。
新井教授は、

基本の読みとか論理的推論ができない子は、いくら知識を教えても、それを整合的に使えるようにはなりません。AIの進化により急速に変化していく社会では、『読める』かどうかは、人生を大きく左右することになります。

と警告しています。
AIの進化による産業構造の変革(第四次産業革命)は、私たちの想像を遥かに上回るスピードで進展しています。
2020年の大学入試制度改革学習指導要領改訂も、その社会を生きる子供たちに必要な力をつけていくためのものです。

この研究結果を受け、新井教授が開発したのが「リーディングスキルテスト」(RST)です。基礎的読解力を測定し、改善に役立てるものです。

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読解力診断 ~「リーディングスキルテスト」に挑戦

「リーディングスキルテスト」のサンプル問題に挑戦してみてください。

※ 次の文を読みなさい。

アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。

*問題)この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

 セルロースは(     )と形が違う。

(A) デンプン (B) アミラーゼ (C) グルコース (D) 酵素

出典:国立情報学研究所「RSTの実例と結果」

正解と、中・高校生の正答率は、記事の最後に掲載してます。

読解能力7分類

「リーディングスキルテスト」(RST)は、11の読解プロセス(文節に区切る、係り受け構造の理解、述語項構造、接続詞、照応関係など)が正しく実践されているかを、能力値7分類で評価します。

○「係り受け解析
文の構造を正しく把握する。読解力の最も基礎となる能力。
○「照応解決
代名詞が何を指しているかを正しく認識する。
○「具体例同定(辞書)
辞書の定義を用いて新しい語彙とその用法を獲得できる。
○「具体例同定(理数)
理数的な定義を理解し、その用法を獲得できる。
○「同義文判定
与えられた二文が同義かどうかを正しく判定する。語彙力や論理力が必要。
○「推論
既存の知識と新しく得られた知識から、論理的に判断する。
○「イメージ同定
文と非言語情報(図)を正しく対応づける。
<出典:一般社団法人 教育のための科学研究所HP>

読解力診断~RSTサンプル問題の答え

RSTサンプル問題の正解は「A」です。
この問題を受検した中・高校生の正答率の低さは、以下の通り驚くべきものでした。

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(次の記事で、国語の「現代文(読解問題)の解き方」を解説します。)

コメント

  1. […] 前記事:「AI時代を生きる子どもたちに必要な力とは?」で、国語力(読解力)が低い現状とその重要性について考えてみました。しかし、本当は、国語ほど楽できる教科はないと思っています。なぜなら、国語は、他教科に比べ「覚えるものが少ない」上に、「答え(の根拠)は文中にある」からです。文の構成をとらえ、正しく読み解く力(リーディングスキル)さえ身につけば、それほど多くの学習時間をかけずとも安定して点が取りやすい教科です。逆にこの読解力がないと、数学や物理等の難しい問題を解くこともできません。ただ、国語が苦手と感じている方に多く見られる、点を取るための「解答技術」(難解な文を読み解くツール・ヒントにはなる)にばかり頼ると、真の読解力はつかないので注意が必要です。 […]

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