野洲高校「セクシーフットボール」に見る指導の本質

今年100回目を迎えた「全国高校サッカー選手権」は、青森山田高校の優勝で幕を閉じました。
これまで、たくさんの名勝負が繰り広げられてきましたが、中でも2006年、「セクシーフットボール」を掲げて優勝した滋賀県立野洲高校は、ひときわ鮮烈な光を放っています。

元レスリング選手でサッカーは素人の山本佳司監督は、組織力重視の日本サッカーとは逆の、個人技重視のプレースタイルで、部員わずか12名だった無名校 野洲高校サッカー部を、8年で日本一に導きました。異例のプレースタイルには賛否両論でしたが、能力の高い選手が揃っていないと不可能とされた「個人技重視」の欧米型サッカーを目指した真意は?
県立高校でありながら、2018年のサッカーW杯で2ゴールの活躍で日本の躍進を支えた乾貴士選手をはじめ数多くのプロ選手や日本代表を輩出しているのはなぜか?
彼の考え方や指導法を知ると、そこには、異例どころか「指導の本質」(神髄)がありました。

グローバルスタンダードな視野・考え方(大きな目標と広い視野)

日本の高校生は、「国立に行きたい、高校サッカ一優勝」を目標にあげる子がほとんど。
外国の高校生は、「バルサに入って得点王、ワールドカップ優勝」。
夢の大きさが違う。この意識の差が、結果を大きく変える

目標が人をつくる。思い描いたことしか実現しない。
指導する上で最も大切なことは、「選手の心に火をつける」ことですが、その火が燃え続け、炎に変えるには、「大きな夢」「広い視野」が必要です。

ストロングポイント(長所)を生かす

「国語50点、算数50点、英語50点」の子は、個性も何の自信もない。
「国語20点、算数20点、英語90点」の子は、英語だけは負けたくないと思う。
これが「ストロングポイント」=「プライド」。

「ディフェンスが苦手な子にディフェンスの練習ばかりさせるより、『お前のドリブルは最高だ。そこだけは誰にも負けるな。』と指示をすれば、子どもはプライドを持ち、どうすればディフェンスをかわせるか考え、課題も見えてくる。その過程で自ずとディフェンスを学び上達していく。」

キックもパスもドリブルもディフェンスも、全てをそれなりにこなす選手はたくさんいる。
しかし、これでチ一ムは作れない
「ディフェンスが苦手」という子に無理にやらせるより、「キックなら」「パスなら」「ドリブルなら」負けない!という個性とプライドが集まった集団の方が強い練習にも真剣に取り組む。

精神力は忍耐カや根性ではなく、プライド(ここだけは負けたくない)で培われる。単純な走り込みやダッシュを嫌々やらせるより、ゲ一ム形式で走力(スタミナ)の重要性を実感させることが大切。

ポジティブシンキング(積極思考・発想の転換)

例えば、雨の日「芝がすべるから注意しろ」という指示で、選手の動きは硬くなります。
しかし、「雨だから、相手は絶対すベってミスするぞ。チャンスを逃すな!」という指示を出すと、前向きにプレーできます。
悪条件は相手も一緒。考え方ひとつで気持ちを優位にすることが大切です。

2006年の全国サッカー選手権大会、鹿児島実業高校との決勝戦
野洲高校はリードしていた終了間際に同点に追いつかれ、延長に突入しました。
意気消沈で戻ってきた選手に、山本監督は「よかった~」と声をかけ、こう続けます。

「もうお前たちとサッカーできないと思ったけど、あと20分プレーできる。最後、俺たちのサッカーを思いっきり楽しもう。」

その言葉で子どもたちは息を吹き返します。
延長の疲れから相手チームは足をつる選手が続出する中、野洲高校には一人もなく、延長後半、乾のドリブルとヒールパスから決勝ゴールが生まれ日本一に輝きました。

ピンチにどんな言葉をかけるかが指導者の力。いかにモチベーションを上げプラスイメージさせるか。

スピードの絶対値は上げられないが、相年の動きを遅らせたり自分が一歩早くスタ一トしたりパスしたりすることで、相対的なスピードは上げられる

個人技重視の指導観について、彼はこう語っています。

個人技は努力の結果

「個人技重視」「セクシーフットボール」という言葉が先行しましたが、その真意は、選手一人一人の個性や特性をとらえ、良さを認め、役割を与え、ストロングポイントを、自信を伸ばしていくという、指導の本質がぎっしり詰まったものでした。

あいさつ、返事、感謝は大切
しかし尖った部分を削り落とし丸くする(和・従順)ことでは、個性も技術も伸ばせないし勝てない。
大切なのは闘争心。世界との差は、体格・体カではなく意識やモチべ一ション

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