お正月の恒例行事となった箱根駅伝。98回目の今年、青山学院大学が、これまでの大会総合記録を大幅に更新する新記録で2年ぶり6度目の優勝を果たしました。
無名だった陸上部を、2015年の初優勝以降「常勝軍団」に変えたのが、ビジネスマンから青山学院大学陸上部監督に転身した原 晋 監督。
彼の指導観には、あらゆる分野に通ずる大切な視点が多々あります。
「業界の常識を疑え」
** 3連覇を達成した時の原監督の言葉です **
青学陸上部は、私が監督に就任した2003年には、箱根駅伝の予選会さえ通過できない弱小チームでした。ようやくチームが結果を出し始めたのは2009年。33年ぶりに予選会を突破し、総合8位に入賞して44年ぶりにシード権を獲得。そして2015年に初優勝。翌2016年には1区から一度も首位を譲らない完全優勝を果たしました。
強いチームをつくるうえで、まず必要なことは、「業界の常識を疑うこと」です。
世の中にあるさまざまな業界・業種には、そこだけで通じる常識があります。中にいると気づかないかもしれませんが、その常識は、世間の常識と比較すると、ときに非常識と思えるものや時代遅れになっているものがあります。
そのことに気付かされたのが、サッカーでした。
サッカー選手は、試合中、選手が先輩・後輩の垣根なく「君」付けで呼んだり、ニックネームで呼び捨てにしたりしています。
「常に先輩を敬う」そう教えられてきた私には、とても違和感がありました。
しかし、それは先輩を敬っていないということではなく(普段は敬語)、常に瞬間的な判断力を求められるサッカーの試合で、先輩に敬意を払っている時間はないという競技特性を考慮した「変化」でした。理由を聞けば納得です。
陸上界に戻ってきたときは、逆の意味で驚きました。私の現役時代と変わらない常識が通用し、指導法も全く変わっていなかったからです。
時代は確実に変化し、人間の思考や行動も変化しているのに、陸上界は何も変わっていない。私から言わせると、それは「退化」でした。
同じ場所に長くいると、時代の変化に気づかないだけでなく、気づこうとさえしなくなります。そういう組織だと、仮に新たな指導法があっても、「ああいうものはダメだ」と、試すことも調べることもせずに否定し、拒絶してしまいます。これでは、チームを強くできません。
業界という小さな世界の「常識」に固執して、大きな世界の流れを直視しないと、時代遅れどころか手遅れになります。
新しい発見やアイデアは、外部と交わることで生まれます。
そのほうが業界内の常識を時代に合わせてダイナミックに転換できると、私は考えます。
「教科書に書いてあることを信じない」
2018年、ノーベル医学生理学賞を受賞した、京都大学の本庶 佑 教授の名言
「教科書に書いてあることを信じない」
原監督の「業界の常識を疑え」に通ずる考え方です。
何でも鵜呑みにせず、「本当はどうなんだろう」という心を大切にする、「自分の目でモノを見る」、考えることが大切、と本庶教授は言っています。
子どもの力を伸ばすには、その能力や特性を正しく理解(把握)することが大切です。そして、指導する競技の本質に照らして、個々にあった(必要な)トレーニングを課していきます。
しかし、長年競技に親しんできた人ほど、従来のやり方から抜けられなかったりもします。
新庄監督は異端児?
今年から、新庄監督が日本ハムファイターズを指揮します。
彼の型破りな風貌や考え方、練習方法が注目を集めていますが、もしかすると、彼は異端児などではなく、「業界の常識を疑い」「教科書を信じず」「自分の目でモノを見ている」だけなのかもしれません。
偏見や先入観という眼鏡を外して見てみると、これまで見えていなかったモノが、本当の姿が見えてくるのかもしれません。
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