コーチング 選手の力を引き出す:栗山英樹監督

北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督が、今年限りで退任されることになりました。
2012年、就任1年目からリーグ優勝を果たし、2016年には日本一に輝くなど、高い指導力でチームを10年間支え続けました。

イチロー選手以来、日本人2人目となるメジャーリーグMVPという偉業を達成した大谷翔平選手。彼の二刀流挑戦や早期のメジャー入りが実現したのも、栗山監督の選手本位の指導あってのものだと、今、つくづく感じています。

以下に紹介する、チーム再建の鍵を握った2人の選手の育成法、コーチングの重要ポイントが見て取れます。

1 吉川光夫投手…3年間勝ち星ゼロから、一躍MVPへ!

就任1年目、エースのダルビッシュが抜けた穴を埋めるべく、栗山監督は、不振にあえぐ吉川投手の育成に力を入れます。
彼は、威力のあるストレートを持つ本格派投手でしたが、精神面の弱さが大きな課題でした。
栗山監督は、「今年ダメだったら、ユニフォームを脱がす。」と、彼に覚悟を促します。

栗山監督は、後にこう話しています。

目標達成の最低条件を示し、期限を限定することが絶対条件。「いつかこうなる」「頑張る」と言っても、そんな「いつか」は、あっという間に過ぎる。
あれだけのものを持っていながら、結果が出ていないのは何が原因か、はっきりさせないといけない。そういう覚悟が必要。

監督は、彼を後がない状況、「背水の陣」に追い込みました。

開幕2戦目に先発した吉川投手は、制球が定まらず3回までに5つの四球を出します。.
栗山監督は、
「腕を思いきり振れ!お前らしいカ強いボールを投げてくれれば、打たれても四球でも構わない。その姿だけは、絶対にマウンドで変えてくるな。」
と声をかけました。
すると、何かがふっ切れたかのように、その後は持ち味のカ強い投球を見せ、4年ぶりとなる勝ち星をあげました。

その年、吉川投手は14勝をあげ、ダルビッシュ投手が抜けた穴を埋めチームのエースに急成長し、MVPに輝きました。

2 中田 翔 … 怪物と騒がれながら伸び悩む男を真の4番に

入団3年目に1軍入りし、打率.233、本塁打9本、打点22。4年目には、初めて4番に抜擢され初のオールスター出場も果たしますが、後半戦は不振に陥り、最終的に18本塁打、91打点を記録するも、133三振、打率.237(いずれもリーグワースト2位)と、安定感に欠ける状態でした。

翌年、新監督に就任した栗山監督は、中田選手を中心とするチーム構想を示します。
キャンプから打撃フォーム改造に取り組み、開幕から4番に据えるも、24打席ノ一ヒット(25打席目で本塁打)。
その後もフォームが定まらず、前半戦は打率1割台と不振にあえぎましたが、それでも栗山監督は方針を変えず、シーズン全試合4番で使い続けました。

悩める怪物も、自分を信じ続ける監督に応えようと奮起し、尻上がりに調子を上げ、この年、リーグ2位の24本塁打、リーグ3位の77打点を記録します。
シーズン最後の連戦では、連敗すれば2位西武に並ばれる大事な試合で、2本塁打5打点とチームの全得点をたたき出しリーグ優勝に貢献。日本シリーズでは、死球で手を骨折しながらも同点3ランを放つなど、4番としての精神(プロ意識)も大きく成長しました。

3 栗山監督の指導観

栗山監督は、自身の指導観についてこう語っています。

「監督の仕事は、選手の能力を引き出すことだけ。どんな言葉で、どういう意識になれば、選手がやりやすいか。怒らせた方がいいのか、プレッシャーかけた方がいいのか・・・、教えるのではなく、一緒にやること。」
「失敗しちゃいけないとか考えるな。自分のやろうとしていることをー生懸命やることが大事!」

選手の迷いや悩みの根本は、技術面以上に精神面にあることがほとんどです。
心に火を点け、「何が何でも」という気持ちにさせられるか…、
それこそがコーチングのスタートであり最も重要なポイントなのだと、2人の事例が教えてくれています。

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