スクール・ウォーズ
もう30年も前になりますが、人気を博したTV番組「スクール・ウォーズ」というドラマをご存知でしょうか?
落ちこぼれの烙印を押されたツッパリ軍団が、一人の熱血教師と出会い、様々な格闘と苦難の末にラグビーを通して立ち直り、全国優勝を成し遂げる感動のドラマです。
これは、当時、京都一荒れた学校だった「伏見工業高校」が成し遂げた、奇跡の「実話」です。
NHKの人気ノンフクション番組「プロジェクトX」でも取り上げられ、伏見工業高校の回は最高視聴率を記録しました。
※ 記事後半に、同番組(YouTube動画)へのリンクがあります。
その後、4度の全国優勝を成し遂げるなどラグビーの名門校となった伏見工業高校(全日制)が、学校の統合により平成29年度末で、97年の歴史に幕を下ろしました。
今年4月に新たな学校が開校したことを知り、伏見工業高校と山口先生の熱血指導に思いを馳せていたら、あの感動が蘇ってきました……。
それは涙で始まった…
校舎の窓ガラスは割られ、廊下でバイクを乗り回し、教師の背広に火を付け、校内にはシンナーの匂いが…
荒れ果てた生徒たちの「眠れる魂」を呼び起こし、彼等を奮い立たせたのは、一人の熱血教師、山口良治先生でした。
「信は力なり」をモットーとする山口先生は、世間から見捨てられ、ツッパることでしか自分の存在を表せない彼らを、決して見捨てませんでした。
「なぜ見て見ぬふりをするんですか!自分の子どもなら、放っておかんでしょう!」
山口先生は、荒れる彼等の心の声に耳を傾け、ラグビーを通して、時には優しく、時には厳しく彼らを鍛え上げました。
しかし、就任当初、意気込む山口先生に部員達は猛反発し、練習試合をボイコットするなど、まともな練習もできない状態でした。
そんな中で迎えた、5月の京都府大会初戦。伏見工業高校は、名門 花園高校に112対0という記録的大敗を喫します。
「ちくしょう!悔しい…」
この屈辱的な惨敗が、彼等のプライドを呼び起こします。
選手たちの涙と叫びは、辛く厳しい闘いに立ち上がろうとする、彼等の産声でした。
落ちこぼれ軍団の奇跡
その悔しさから部員達は努力を重ね、何度もつまづき、様々な壁に何度もぶつかり、跳ね返されながらも、あの悔しさを胸に血を吐くような練習を重ねます。
そして1年後の春、あの屈辱を味わった春の京都府大会。
そこには、1年前には想像もできないほど生まれ変わった彼らがいました。
闘志あふれるプレーで快進撃を続け、決勝まで勝ち進んだ伏見工業高校の相手は、奇しくも花園高校。
花園高校を倒すことが彼らの最大の目標であり、苦しい練習に耐え続ける原動力でした。
あの悔しさを胸に、必死で戦う生徒たち…。
しかし、試合が進むうち、彼らには別の感情が湧き上がっていました。
「親父(山口先生)を喜ばせたい…」
自分たちを信じ続けてくれた山口先生への思いを胸に、選手たちは必死のプレーを続けました。
目の上を切り、鼻血を出しても走り続け、足がつって倒れても「仲間のために…」と立ち上がりました。
12対12の大接戦で残り5分、最後の力を振り絞り猛攻撃を仕掛けた彼らは、決勝トライを奪い、18対12で勝利します。
あの屈辱の敗戦から1年…、悔し涙をうれし涙に変えた「落ちこぼれ軍団」は、わずか1年で、ラグビー強豪校へと生まれ変わりました。
京都一から日本一へ
京都一の称号を手にした彼らの次なる目標は、全国大会出場。
1979年、ついにその時を迎えます。
初の全国大会への切符をかけた京都府大会決勝、相手は、あの花園高校…。
112対0…あの悔しさがあったから、ここまで来られた。
だからこそ、花園高校を破って全国に行く!そこに大きな大きな意味がありました。
スタンドから見守るOBたちは、思いを赤いジャージの後輩たちに託し、声を枯らして応援しました。
「最後の最後まで気を抜くな!それが、俺たちを強くしてくれた相手への礼儀だ!」
どんな人間でも、目標に向かいひたむきに努力をすれば、乗り越えられない壁などない。
信じてやってきたことを、「信は力なり」を、証明したかった。
「ピピーッ!ノーサイド!」
55対0 伏見工業高校は、ついに全国大会への切符を手にします。
あの屈辱の敗戦から5年…。歓喜に沸き、涙で抱き合う山口先生と選手たち…。
スタンドから見守るOBたちには、涙でかすんでよく見えませんでした。
そのときの言葉です。
こんなに辛いことはなかった。
こんなに苦しいことはなかった。
こんなに悔しいことはなかった。
でも…
こんなに嬉しいことはなかった。
★ NHK「プロジェクトX」ツッパリ生徒と泣き虫先生 挑戦者たち~伏見工業ラグビー部・日本一への挑戦~修正版
※ 本当に感動します。心を揺さぶられます。ぜひご覧になってみてください。
全国大会初出場ながらベスト8まで勝ち進んだ伏見工業高校は、翌年、全国優勝という更なる奇跡を起こします。
あの日、選手(OB)たちが味わった屈辱…、そして産声…、血反吐を吐くような猛練習…
彼等が口々に言うのが、「あの時があったから…」「あの時に比べたら…」
「あの時…」がある人間は強い!
自分を信じ、仲間を信じて、力の限り突き進む…結果がどうであれ、その先に初めて見えるもの、それこそが人生の糧になるのだと思います。
「若いときの苦労は買ってでもせよ。」という言葉の意味は、「あの時…」と言える経験が後に自分を支えてくれる、という教えなのかもしれません。
事実は小説より奇なり
マンガや小説でも書けないほどの奇跡を見せてくれた伝説のチーム「伏見工業高校ラグビー部」。
学校はなくなっても、伝説の教師「山口良治先生」と彼らが残した熱い思いは、人々の心の中で永遠に生き続けます。
さようなら、伏見工業高校。
感動をありがとう! 勇気をありがとう!
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